偽物サプリメントの流通により、正規メーカーの売上が影響を受けるだけでなく、消費者の健康リスクも高まっています。特に、ビタミンやアスタキサンチンを配合したサプリメントは、通販市場での需要が高く、偽物が出回りやすい製品カテゴリーとなっています。偽物を購入した消費者からの問い合わせやクレーム対応に追われることで、正規メーカーの業務負担も増大しています。
この問題に対し、税関での輸入差止申立てが強力な解決策となります。健康食品や機能性表示食品、またはサプリメントの正規メーカーがこの制度を活用することで、偽物の拡散を抑え、製品の信頼性を維持できます。本記事では、輸入差止が受理されたあるサプリメントブランドの事例を紹介します。
税関の公式サイトには、受理済(現在有効)の差止申立ての一覧が掲載されています。この一覧の中には、たとえば、富士フイルム株式会社による「サプリメント」に関する申立てが含まれています。
公表された情報を見ると、商標権の内容として「商標登録第6540773号」が記載されています。この商標権についてもう少し詳しく調べてみましょう。特許庁が提供する知的財産データベース「J-PlatPat」を使用します。その結果、以下のような情報が得られました。読者のみなさまもご存知のとおり、富士フイルムは超大企業であり、手がけている商品やサービスも多岐にわたります。そのため、指定商品・役務の欄がものすごく充実しており、本記事で全てを表示することができません。ですので、「サプリメント」の記載がある部分を抜粋して貼り付けております。
「指定商品」の欄に「サプリメント」としっかり記載されています。この記載に基づいて、「FUJIFILM」のブランドロゴが印刷されている偽物のサプリを税関に没収・廃棄してもらっているのですね。
商標権というのは、他人が、登録商標を指定商品と同一又は類似の商品(または役務)に使用することをやめさせることができる権利です。
では、「サプリメント」の類似の範囲はどこまでなのでしょうか?
これを判断する際に役立つのが「類似群コード」です。類似群コードとは、特許庁が商標審査において商品・役務の類似性を判断するために使用する5桁のコードであり、同じコードが付された商品・役務は原則として類似と判断されます。上の画像の中の最下行に並んでいる数字とアルファベットの組み合わせが「類似群コード」です。
「サプリメント」に付されるコードは「32F15」です。この「32F15」というコードが付される商品は、商標法の世界では原則として「サプリメント」と類似と判断されます。そして、どのような商品に「32F15」が付されているか、ということもJ-PlatPatで調べることができます。「サプリメント」と同じコードが付されている商品の一例を以下に列記します。
糖衣錠の食用ロイヤルゼリー、粉末状の食用ロイヤルゼリー、瓶詰の食用ロイヤルゼリー、液状の食用ロイヤルゼリー、加工済み食用花粉、加工済み食用松花粉、ロイヤルゼリー(医療用のものを除く。)、アサイー粉を主原料とする栄養補助食品、アルギン酸塩を主原料とする栄養補助食品、アルブミンを主原料とする栄養補助食品、カゼインを主原料とする栄養補助食品、クロレラを主原料とする栄養補助食品、クロレラを主原料とする粒状の加工食品、グルコースを主原料とする栄養補助食品、コエンザイムQ10を主原料とする栄養補助食品、ビタミンを主原料とするパッチ状サプリメント、プレバイオティックサプリメント、プロテインを主原料とする栄養補助食品、プロテインサプリメント、プロポリスを主原料とするサプリメント、プロポリスを主原料とする栄養補助食品、ホエイプロテインを主原料とする栄養補助食品、ミネラルを主原料とする栄養補助食品、ルテインを主原料とする栄養補助食品、レシチンを主原料とする栄養補助食品、ローヤルゼリーを主原料とする栄養補助食品、亜鉛を主原料とする栄養補助食品、亜麻仁を主原料とする栄養補助食品、亜麻仁を主原料とする栄養補助食品、亜麻仁油を主原料とする栄養補助食品、亜麻仁油を主原料とする栄養補助食品、大豆イソフラボンを主原料とする栄養補助食品、大豆プロテインを主原料とする栄養補助食品、小麦胚芽を主原料とする栄養補助食品、抗酸化用薬剤・栄養補助食品、日焼け用薬剤・栄養補助食品、松の花粉を主原料とする栄養補助食品、栄養補助食品、活性炭を含有する栄養補助食品、消化補助用食物繊維、液体のビタミンを主原料とするサプリメント、痩身用薬剤・栄養補助食品、穀類の処理工程における副産物(食餌用又は医療用のもの)、粉末状のサプリメント飲料の素、美容効果を有する栄養補助食品、花粉を主原料とする栄養補助食品、葉酸を主原料とするサプリメント、酵母を主原料とする栄養補助食品、酵母を主原料とする粒状の加工食品、酵素を主原料とする栄養補助食品、醸造酵母を主原料とする栄養補助食品、鉄を主成分とするサプリメント、鉄を主成分とする栄養補助食品、霊芝を主原料とする栄養補助食品、食欲抑制剤、食欲抑制用薬剤・栄養補助食品、食物繊維、食物繊維、食餌用又は医薬用のでん粉、DHA藻類油を主原料とする栄養補助食品
これらはほんの一例で、まだまだたくさんの商品に「32F15」というコードが付されています。ニセモノ業者が「うちの商品はサプリではない!」と主張しても、何らかの効能を得るために口から摂取するものであれば、言い逃れするのは難しそうですね。
偽物サプリメントの流通は、正規メーカーの売上やブランド価値を損なうだけでなく、消費者の健康被害にもつながる深刻な問題です。特に、通販市場で人気の製品は偽物の標的になりやすく、問い合わせやクレーム対応がメーカーの負担となることも少なくありません。
この問題に対して、税関での輸入差止申立てが効果的な対策となります。本記事で紹介したように、実際に富士フイルム株式会社の商標権を活用した申立てが受理され、偽物サプリの流入が阻止されています。
模倣品によるブランドの信頼低下や消費者とのトラブルを回避するためには、適切な対策が求められます。特に、ブランドオーナーが正規品を守るには、商標権を有効に活用することが不可欠です。本記事で紹介した事例を参考に、自社のブランド保護に役立つ施策を検討してみてはいかがでしょうか。正規品の保護に関心をお持ちの方は、ぜひ当事務所までご相談ください。